新聞勧誘
『ピンポーン』
「どなたですか?」
「お届け物です。」
『ガチャッ』
うわ、やっべえ開けちまった。
パンチパーマの40代のおっさんが洗剤を差し出している。
クラリーノの靴は既にドアが閉まらないように一歩踏み出しロックしている。
思わず洗剤を受け取りそうになったがそこは強靱な精神力で耐える。
「何すかこれ?」
「お兄さんJリーグのチケットあるんだけどどう?」
「えっマジっすか?」
と、飛びつきそうになったが、ここも強靱な精神力でカバー。
「いや、いいっすよ。」
男は不自然なくらいニコニコだ。
「新聞なんだけどさぁ。もうどっか決まってんの?」
「いや、全然読まないんで。」
「読まないと社会のこととか不安にならない?」
「いや、アホなんで。」
「賢くなりたいと思わない?」
「いや、やる気ないんで。」
「若いウチからそんな投げやりになるなよ。毎朝読むとやる気でると思うんだけどなぁ・・・そうだ!一ヶ月だけ試してみようよ。」
「すんません。いいです。」
テキトーに対応していると、突然男のニコニコ顔が消えた。
「ホウ?俺がこんなに頼んでいるのに?この野郎は。フ~ン?」
まるでのび太やスネ夫から物を取り上げる時のジャイアンのようだ。
面倒くさくなってきたので、
「いらないんで帰ってください。」
と、男の体をドアの外へ少し押した。すると、
「あ!何だ?お前今の?押したな?俺は何にもしてねえぞ。おい!暴力ってのはどういうことだ?ああ!?」
事態はますます面倒な方向へ。
「あの・・・。」
「何だ!?」
「俺、前に拡張(勧誘)のバイトやってたから(←実話)、脅しても意味無いすよ。」
「何だ。お前同業者か?じゃあ取ってくれよ。サインだけして後で断りゃいいだろ?」
「そういうのはあんま・・・。」
「はっきりしねえ奴だな。どうすんだよ。」
さっきからいらねえって言ってんじゃんと思いつつ、
「俺ちょっとインフルエンザなんで寒いんすけど。」
「あ、そうか。風邪ってのはこえーよな。俺の親戚もな・・・。」
なんて言いながらおっさんは、こともあろうにドアを閉めて、玄関の内側に完全に入ってきてしまった。
「で、何ヶ月?もうこんな寒い所で話してないで寝てろよ。」
ダメだこりゃ。
「じゃあ・・・警察呼びますね。」
と、部屋の奥に引っ込もうとすると、
「ちょっと待て!お前気に入った!」
迷惑である。
「外で珈琲でも飲まねえか?奢ってやるよ。」
「だからインフルエンザですから。」
「あのな・・・。」
無視して警察にかけているフリをしていると、おっさんは、
「おい!覚えてろ!」
と怒鳴って、
『ガーン!』
とドアを閉め出ていった。
しかも洗剤忘れて。
良い天気である。