やめるのやめた -29ページ目
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牛乳キャップ山分け事件

 牛乳キャップをたくさん集めることは、子どもたちにとって一種のステイタスとなっている。

 キャップごときでと笑う人もいるかもしれないが、貧富の差がなぜか生まれ、年貢を納めるようにキャップを献上する者まで現れる。取り立て業者のような者、ひたすら拾うことに専念する者など、実に様々な人間模様が見られるのである。

 ある日、持ち物の整頓が苦手な大富豪が、大量のキャップを床にバラまいてしまった。

 「みんなで山分けよ!」

 と、言う、ある女子の一言を皮切りに、血で血を争う地獄絵図が繰り広げられた。
 この騒動で、3人がヒザをすりむき、2人が頭をぶつけ、大富豪は泣いた。

 騒動を鎮圧した後、事情聴取となる学級会が行われた。すると、キャップを欲しがる浅ましい心が良くないんだと、みんな徐々に気付いていく。

 ところがここで、騒動の原因となる一言を発した女子が、真顔で信じられないことを口走る。

 「私は何度もやめなって言ったのに、○○くん達が取ろうぜって言いました。」

 もう爆笑モノである。
 「お前が最初に言ったんじゃん!」
 と、3人ぐらいにユニゾンで切り返されていた。
 面白すぎである。

 他にも、
 「お前ら、席に着けよ!」
 と、真顔で怒鳴っているのに、自分が席に着いていない子や、
 「ここに入れて。」
 と、言って、列に後から割り込んだくせに、他の子には、
 「横入りすんなよ!」
 と妙に厳しく取り締まっている子なんかは見ていて面白い。

 不完全な正義感って妙に笑える。

 子どもってのはやっぱり天才なのである。
 少なくともコソコソ悪事を働く大人よりは。

集中力ゼロ

 発症から1週間。

 未だ青っパナが次々と溢れる。
 どこにこんなに入ってたんだ?ってぐらい大量に産出している。
 熱も37℃台からは下がらず、咳もまだまだ止まらない。
 でも体調は悪くない。

 天気も良いし、朝から何かやらかしたい衝動に駆られる。
 ここは一発、すげえ曲を作ろう!
 と、思い立ち、ギターを抱えて一人暴れること小一時間。
 弦が2本切れ、曲はまるでできず。

 弦を張り替えていると、今度は部屋が散らかっていることが気になる。
 張り終える前に頭のスウィッチは、作曲から模様替えへと切り替わっていた。
 テーマは、「より広く快適に!」。
 理想としては道場のように何にもなくだだっ広い空間である。

 まずは棚の位置を大幅に変更だ。
 とにかく動かす。
 どこに納めるのかは後で良い。
 やると確信して働くのは気持ちの良いものだ。

 ・・・が、散乱したマンガに足を取られ棚を思い切りひっくり返す。
 「粛正だぁ!」
 と、マンガどもを次々とクローゼットの中へと封印していく。

 気が付くと、ブッダ全12巻を読破してしまっている俺。
 もはや部屋などどうでも良い。
 「川のように生きなさい。」
 そうだ。無理せず自然に流れよう。


 ・・・まだ午前中かよ。


爆音のY字路

 Y字路の合流地点に住んでいる。
 そう、三角州の角だ。

 両サイドはどちらも交通量が多い。
 しかも夜中は大型のトラックが頻繁に通る。
 トランス系の音楽を大音量で鳴らす車がしょっちゅう信号待ちをしている。

 そして近所に消防署や交番があるせいで、パトカー、救急車、消防車などが昼夜関係なくサイレンを鳴らしながらガンガンに通る。もう治安が良いんだか、悪いんだか訳がわからん。

 そりゃあ非道い。引っ越した方が良いよ。
 と、おっしゃる方も居るかもしれませんが、実は周りがこれだけうるさいととても楽なのです。
 
 こんなんだから、今も「SAFE EUROPEAN HOME」を爆音でかけていられるのです。

ヤケクソな節分

 節分の日、先週3日の出来事である。

 我々1年1組は、図工の時間に自分で作った鬼のお面をかぶり、各自弾薬(豆)を持ち出陣した。

 鬼が豆をまくのは変なのだが、自分の心の中の鬼を退治するという目的であるからして良いのである。つまり一人一人が、「おこりんぼ鬼」、「なきむし鬼」などのように自分の直したい部分を名前に付け、お互いにやっつけ合うのである。

 子どもたちは勿論、何故か俺のテンションも最高潮。被弾防止にゴーグルを着用。盛り上げる為にアコギを抱え、最初のターゲット2年生の教室へ。

 事前に知らせていたので、2年生は豆がもらえると大喜び。そこが甘いっちゅうねん!ただで喰わせるか!喰らえ~!ってなテンションで、教室に落花生が飛び交う地獄絵図。

 ふと見ると、「おこりんぼ鬼」は、やっぱり豆を当てられて怒っている。
 「なきむし鬼」は、目に豆が当たったと泣いている。
 「めんどくさがり鬼」は、豆をまくのもかったるそうにテキトーにやっている。

 「くいしんぼ鬼」は、ひたすら落ちている豆を拾っては自分の袋へ入れている。

 ウォー・イズ・オーヴァー。

 2年生との健闘を称え合い、次は5年生の教室へ。

 ガラッと戸を開けると、教室の真ん中へ通された。

 しかも奴ら全員、豆を隠し持っている。嵌められた・・・。

 四方八方から集中放火されてしまう。

 しかも相手は5年生。

 1年生のちびっ子が敵うはずもない。

 ここは俺が外に回って援護射撃するしかない。

 とにかく赤い彗星っぽい奴を潰しておくべきだと思い、サッカークラブのやんちゃ坊主を集中攻撃。

 夢中になりすぎて気が付くと、後ろからガンガンに豆を当てられている。

 あまりに大量なので、ふと振り向くと、1年生がニコニコしながら俺に豆を当てている・・・。

 お前達を助けてるのに意味ないじゃん!

 お前ら天才すぎだ。

 ウォー・イズ・オーヴァー。

 テンションが上がっているのでヤケクソになり、

 5年生のリクエストに応えて担任の女教師をギター侍で斬る。

 大うけである。

 そしてこの後も異様なテンションで校内中を、ちび鬼軍団と豆まき。

 いろんなところでギター侍をやらされ、恥もヘッタクレもあったもんじゃない。

 全校を回り、教室に帰ってくると、みんなクタクタであった。

 「豆なくなっちゃった。」なんてなことを言ってる子が多い中、

 「くいしんぼ鬼」の豆袋は何故か出発時の3倍くらいに膨れていた。

 彼女の節分は、「豆まき」ならぬ「豆拾い」なのであった。

 この日の終わりに体調の異変を感じた。

 2日後、壊滅的な熱病に魘されることになろうとは、この時点では知るよしもなかった。

 B型のワガママ鬼が内に入ってしまったのね・・・。

教員サッカー大会

 今年の小体連サッカー大会は中央大会の準決勝まで進んでいた。

 ラインズマンを頼まれていたんだけど、まだ寒空の下を走れるほど回復はしていないので断った。

 でもまあ近所なので覗いてみることに。

 H市対S区の試合。開始早々セットプレーからS区が先制し、リードしていた。

 何だか寂しくなってグラウンドを後にした。去年はここまで勝ち進んだのになぁ・・・。

 11月に予選で一回戦負けした悔しさがまたこみ上げてきた。

 2得点1アシストと頑張ったが、終了間際のシュートがポストに阻まれ、ハットトリックと勝利を逃した・・・。

 たかが先生達の娯楽の大会である。そんなにムキにならんでもいいんだけど、

 やっぱり負けるのはイヤン。

 まあ勝ってたとしても、インフルエンザで出れんかったと思うけどな。

教室にヨン様

 いくらなんでも事務仕事ぐらいはやっておかないと来週死ぬ。

 と思い、今学校にブツを取りに行ってきた。
 子どもたちは休みだし、伝染す心配もない。
 
 職員室の机には、目を通したくない書類の数々、

最後に働いた日のマル付けをしてないノートなどがグチャッと散乱していた。

その中に見覚えのないの封筒が・・・。

 中には子どもたちが俺に宛てた手紙が入っていた。
 
 「はやく学校にきてください。」
 「先生とサッカーしたいです。」
 「ギターひいてくれないとさみしいです。」
 「はやくきてほしいけど、ぼくにはうつさないでね。」

 あいつら泣かせるなぁ・・・。

 しかしよく読んでみると、5人に1人ぐらいの割合で、共通したナゾの文章が書かれている。

 「先生が休んでいるあいだ、ヨンさまがきました。」
 「ヨンさまが、先生におてがみかこうねっていいました。」


  ??????

 ヨン様が教室に来たと言うのか?
 この手紙はヨン様の指令によって書かれたのか?
 ・・・ってことはヨン様って良い人?

 誰なんだヨン様?

 ありがとうヨン様。

新聞勧誘

 『ピンポーン』
 「どなたですか?」
 「お届け物です。」
 『ガチャッ』

 うわ、やっべえ開けちまった。
 パンチパーマの40代のおっさんが洗剤を差し出している。
 クラリーノの靴は既にドアが閉まらないように一歩踏み出しロックしている。
 思わず洗剤を受け取りそうになったがそこは強靱な精神力で耐える。

 「何すかこれ?」
 「お兄さんJリーグのチケットあるんだけどどう?」
 「えっマジっすか?」
 と、飛びつきそうになったが、ここも強靱な精神力でカバー。
 「いや、いいっすよ。」
 男は不自然なくらいニコニコだ。

 「新聞なんだけどさぁ。もうどっか決まってんの?」
 「いや、全然読まないんで。」
 「読まないと社会のこととか不安にならない?」
 「いや、アホなんで。」
 「賢くなりたいと思わない?」
 「いや、やる気ないんで。」
 「若いウチからそんな投げやりになるなよ。毎朝読むとやる気でると思うんだけどなぁ・・・そうだ!一ヶ月だけ試してみようよ。」
 「すんません。いいです。」

 テキトーに対応していると、突然男のニコニコ顔が消えた。
 「ホウ?俺がこんなに頼んでいるのに?この野郎は。フ~ン?」
 まるでのび太やスネ夫から物を取り上げる時のジャイアンのようだ。

 面倒くさくなってきたので、
 「いらないんで帰ってください。」
 と、男の体をドアの外へ少し押した。すると、
 「あ!何だ?お前今の?押したな?俺は何にもしてねえぞ。おい!暴力ってのはどういうことだ?ああ!?」
 事態はますます面倒な方向へ。

 「あの・・・。」
 「何だ!?」
 「俺、前に拡張(勧誘)のバイトやってたから(←実話)、脅しても意味無いすよ。」
 「何だ。お前同業者か?じゃあ取ってくれよ。サインだけして後で断りゃいいだろ?」
 「そういうのはあんま・・・。」
 「はっきりしねえ奴だな。どうすんだよ。」

 さっきからいらねえって言ってんじゃんと思いつつ、
 「俺ちょっとインフルエンザなんで寒いんすけど。」
 「あ、そうか。風邪ってのはこえーよな。俺の親戚もな・・・。」
 なんて言いながらおっさんは、こともあろうにドアを閉めて、玄関の内側に完全に入ってきてしまった。
 「で、何ヶ月?もうこんな寒い所で話してないで寝てろよ。」
 ダメだこりゃ。

 「じゃあ・・・警察呼びますね。」
 と、部屋の奥に引っ込もうとすると、
 「ちょっと待て!お前気に入った!」
 迷惑である。
 「外で珈琲でも飲まねえか?奢ってやるよ。」
 「だからインフルエンザですから。」
 「あのな・・・。」
 無視して警察にかけているフリをしていると、おっさんは、
 「おい!覚えてろ!」
 と怒鳴って、
 『ガーン!』
 とドアを閉め出ていった。

 しかも洗剤忘れて。


 良い天気である。

隔離中

 体に抗体が生まれ、ハナミズが大量に放出される。
 俺を苦しめたB型の憎い奴も年貢の納め時ってわけだ。

 朝起きて体調は良好なのに感染防止の為、仕事にも行けないでいる罪悪感をやや感じつつ、とてつもなくまずい野菜ジュースを飲んでいる。

 休み時間の後、
 「お前達!手洗い・うがいしとかないとインフルエンザにかかって死ぬぞ!」
 と声をかけると、
 「え~!!!?」
 っと、水道に群がってきた子どもたち。そもそも散々教室で手洗い・うがいを奨励していた俺自身が真っ先に倒れたってのはどういうことだ?

 今日も担任不在の教室でキッズたちは何をしているのだろうか?

 早く給食喰ってサッカーしてぇなぁ。

インフルエンザ

 突然39℃の熱が出てから、地獄の4日間を耐え抜いた。

 ハナミズや咳は出るが、熱も下がり体のフシブシも痛まない。

   大概にしとかないと、ちびっ子ハウスのみんなも心配するだろう。

 そんな訳で、登校許可・・・いや、通勤許可をもらいに病院へ。

   ところが病院での医師の診断は・・・
 

 「NO」


 「クラァ!ヤブ医者。お前の目はフシアナか?ピンピンしとるやないか!」
 というのは心の中での叫びであり、一応社会人であるワタクシメは、
  「ちょっともう仕事休むのはキツイんですけど。てゆうか体調も良いし・・・。」
 と、穏便に事が運ぶように切り返した。ところが、
 「でも、あんたB型のインフルエンザで他の人に伝染しますから。残念!」
 と、あっさり斬られ帰宅。 職場に連絡。
 「俺的には全然オッケーなんすけど、伝染るからダメだって言われました。」
 職場の長も、
 「そりゃそうだ。いいから寝てろ。」

 確かにあの医師の言い分は正しい。今にして思えば、たとえ心の中であろうとも、

   『ヤブ医者』だなんて思った俺がブタ野郎なのである。

 こうして来週の月曜日まで隔離休暇なのです。

 てな訳で何かを始めようと思い、連載開始です。よろしくお願いします。

 ちなみに今回の闘病生活で汗を大量にかき、4kgも痩せてしまった。

  インフルエンザ・ダイエットは効果絶大ですが、できるだけ避けましょう。


   苦しいですから。

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